天然物からの医薬品開発のおはなし

2017年 5月 1日 月曜日

突然ですが「アスピリン」という医薬品をご存知でしょうか。これは解熱鎮痛剤として風邪薬に用いられるくすりで、皆さんも1度はお世話になったことがあるかと思います。実はこのくすり、日本人にも身近でなじみのあるヤナギから採れたサリチル酸をもとに創られたものです。

薬と聞くと合成したものというイメージが強いかもしれませんが、自然に存在する天然物を起源としたものも多いのです。今日は天然物と医薬品開発についてのお話しを致します。

植物は、動物とは異なり動くことができないため、与えられた環境で生き延びるしかありません。そこで植物はあらゆる化学反応を駆使し、多岐にわたる化合物を生み出すことで生命活動を維持しようとします。そのために植物から得られた天然物には生理活性に富んだものが多く、医薬品として多く利用されてきました。

例えば、植物からつくられた有名な抗がん剤として、

・ニチニチソウから抽出された【ビンブラスチン】

・タイヘイヨウイチイから抽出された【パクリタキセル】

・喜樹(キジュ)に含まれるカンプトテシンの構造を基に創られた【イリノテカン】などがあります。

他にも、近年ではクソニンジンから見つけられた抗マラリア薬の【アルテミシニン】は、2015年のノーベル生理学・医学賞で注目されました。

このように現在の医療に欠かせない多くの医薬品が天然物をルーツとして創られています。実際、市場に出された医薬品のうち5割以上が自然に存在している天然物をもとに開発されたものだそうです*1

その一方で、天然物からくすりを創りだすには課題も様々あり、効率性という点では合成物の方が優れているイメージがあります。しかしながら、自然には、未知なる医薬品の資源として未だ手付かずの天然物が残っています。そして多くの天然物は、合成技術だけでは創造できないような多彩で複雑な構造を持つため、大いなる可能性を秘めています。今後も天然物は人々の健康に貢献できる創薬資源として期待できます。

 

私たちは過去もこれからも、自然から多大なる恵みを受けつづけていくことに違いありません。

 

参考資料

1) D. J. Newman & G. M. Cragg: J. Nat. Prod., 75, 311

(2012).

2)創薬科学入門─薬はどのようにつくられる?

3)化学と生物 Vol. 54, No. 1, 2016

水分のおはなし

2017年 4月 15日 土曜日

人間の体を構成している成分のうち、最も多いのが水分です。

その割合は成人で約60%を占めており、血液やリンパ液をはじめ、細胞の内外や皮膚などあらゆる部位に分布しています。

 

体内での水分の役割は多岐にわたりますが、いずれも生命維持に欠かせない重要な働きをしています。

代表的な働きとして、

 

  • 体温を保つ

運動を行うとエネルギーを多く使用するため、多くの熱が生まれます。水は蒸発するときに熱を奪いますので(気化熱)、汗をかくことにより熱が奪われ、体温を調節しています。

 

  • 栄養や老廃物を運ぶ

栄養素や老廃物を運ぶ血液の主成分は水であり、体内で行われる栄養素の消化・吸収はいずれも水に溶けた状態で行われます。十分な水分がないことには栄養素の運搬、消化、吸収にも影響がでてきてしまいます。

 

  • 発汗や排尿により体内の水分量を一定に保つ

水分を多くとると尿の量は増えます。逆にあまり水分をとらなかったり、汗をよくかくと尿の量は少なくなり、体内の水分量は一定に保たれます。

 

体内の水分が20%以上失われてしまう、生命にかかわることがあります。1%程度の水分が失われると、のどの渇きを感じ、水分を補うように働きます。

水分不足は熱中症の原因にもなります。発汗が続くと体液も失われ、水分不足になり、体内の電解質が失われます。さらに体液が失われると、いよいよ発汗作用も止まってしまい、体温を下げることができなくなり、身体に異常がおこります。

 

水分不足を防ぐためには、のどの渇きを感じる前に、こまめに水分補給することが大切です。運動や入浴後前後、朝起きた時や寝る前など、こまめに水分を補給するようにしましょう。暑い時期には発汗量が増え、脱水症状をおこしやすいので、いつも以上に意識して水分をとるようにしましょう。

また、ただ単に水分だけをとるのではなく、塩分補給も大切です。スポーツドリンクなどの塩分や糖分を含む飲料は水分の吸収がスムーズにでき、汗で失われた塩分の補給にもつながります。ただし、かかりつけ医から水分や塩分の制限をされている場合は、よく相談の上、その指示に従ってください。

『梅干し』の疲労回復のおはなし

2017年 4月 1日 土曜日

冬から春に掛けては梅の季節ですね。

その梅の実を塩漬けにして、日干しをしたものが梅干しになります。

 

日本では昔から梅干しは、健康食品として親しまれています。

梅干しは家庭でも簡単に作ることが出来、おにぎりやお弁当、料理など色々なものに取り入れられています。

手軽に取り入れることが出来るのも、親しまれている理由かもしれません。

梅干しで有名な効果の一つは『疲労回復』でしょうか。

その疲労回復に一役買っているのが、梅干しに含まれているクエン酸という成分です。

 

ダメージを受けた細胞の修復をしてくれるATPは、『クエン酸回路(ATPサイクル)』と呼ばれる回路から作られています。このクエン酸回路を活発にしてくれる成分が、クエン酸と言われています。

 

クエン酸は梅干しだけでなく、レモンやグレープフルーツなどの柑橘類にも含まれている事が知られています。

運動などで体力が消耗しているときは糖質を一緒にとると良いので、よく見かけるレモンのはちみつ漬けなどは理にかなった食べ物と言えます。

またクエン酸は酸味成分のため、酸味が苦手な場合には、はちみつと摂ると良いと紹介されていることもあるので、食べやすい方法の一つのようです。

 

疲労回復で有名な『ビタミンB群』とクエン酸を一緒に取るのも効果的と言えます。

先ほどのクエン酸回路にはビタミンB群も関わっているので、クエン酸と合わせて摂ることによって回路をスムーズに動かしてくれます。ビタミンB群が入っている食品は豚肉が有名ですが、動植物食品に広く入っていると言われているので、こちらも比較的摂りやすい成分ではないでしょうか。

これから気温が上がってくる時期です。

夏バテの時に梅干しを食べることで塩分補給も出来るので、水分と一緒に取ると疲労回復と合わせて理想的かもしれません。

また梅干しは『殺菌効果』でも知られており、おにぎりやお弁当に入れられている理由のひとつです。これからの時期には効果発揮が期待できそうですね。