運動とアミノ酸のはなし

2015年 10月 15日 木曜日

今年はとても暑い夏でしたね。
まだまだ残暑も厳しいですが、ピークはやっと過ぎて、少しずつ涼しい日も出てきました。
これからスポーツもしやすい季節になりますので、今回は運動と分岐鎖アミノ酸の関係についてお話しします。

●分岐鎖アミノ酸とは:
私達の体を作っているタンパク質は、20種類のアミノ酸がつながってできています。この20種類のアミノ酸の中には、アミノ酸分子の骨格を作る炭素鎖が二股に枝分かれしているものがあり、これを分岐鎖アミノ酸と呼んでいますロイシン、イソロイシン、バリンの3つがこれに属しています。
これらはいずれも、体内で合成することができない「必須アミノ酸」であり、栄養素として外部から摂取する必要があります。

●筋肉の損傷とアミノ酸
筋肉を構成するたんぱく質(筋たんぱく質)には特に分岐鎖アミノ酸が多く含まれており、総アミノ酸量の約35%を占めるとされています。
あるグループによると、低強度の自転車運動における筋たんぱく質の分解が分岐鎖アミノ酸の摂取によって有意に抑制されたと報告されています。

●運動の疲労とアミノ酸
運動する20-30分前に分岐鎖アミノ酸を補給しておくと、筋肉中の分岐鎖アミノ酸の分解が抑えられ、筋肉の疲労や損傷を防ぐことが期待されています。
また、筋肉中には糖質がグリコーゲンの形で貯蔵されており、運動をすると消費されますが、糖質代謝(グルコース・アラニンサイクル)によって疲労物質である乳酸が蓄積されます。そのため、次第に筋肉中のpHが低下して筋肉の収縮が妨げられ、運動を持続できなくなります。
しかし、分岐鎖アミノ酸をはじめとするアミノ酸を摂取すると、負荷の大きい運動をしても、血中の乳酸の濃度が上昇しにくくなるという報告もあり、分岐鎖アミノ酸が筋肉の疲労を軽減すると考えられています。

いかがでしたか?
運動前のアミノ酸補給で、いつもの運動もさらに楽しくなりそうですね。
くれぐれも運動前の準備運動も忘れずに行いましょう!

参考資料:アミノ酸の科学 その効果を検証する(講談社、櫻庭 雅文著)、究極のトレーニング-最新スポーツ生理学と効果的カラダづくり(講談社、石井 直方著)

イワシのはなし

2015年 10月 1日 木曜日

10月4日は、イワシの日です。

イワシには、新しい細胞を作る上で欠かせない、良質のタンパク質をはじめ、脳細胞や体細胞によい脂質、ビタミンA、B類、D、E、カルシウム、鉄分、亜鉛、そして核酸など、多彩な成分が豊富に含まれており、「海の玄米」とも呼ばれています。

イワシのような青魚には、悪玉コレステロールや中性脂肪を下げる働きがあり、動脈硬化の予防などにも役立つ多価不飽和脂肪酸が含まれます。
多価不飽和脂肪酸には、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などが挙げられます。
今回は、サプリメントとしても人気の高い成分であるドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)の特徴をお話します。

<ドコサヘキサエン酸(DHA)>
期待されている効能としては、高脂血症や心筋梗塞、脳卒中予防と改善、抗がん作用などです。
科学的に検証しますと、高脂血症、心筋梗塞、脳卒中の効果は認められていますが、抗がん作用は科学的根拠がはっきりしないようです。
また、認知症の改善効果があるとする複数の研究が報告されています。他に、アトピー性皮膚炎の改善効果も報告されています。
意外なところでは、ストレスがかかりやすい環境にある子供や若者がDHAを摂取すると、精神的な不安定さや攻撃的な行動を抑制する効果があると報告している研究もあるそうです。

<エイコサペンタエン酸(EPA)>
期待されている効能としては、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞の予防と改善、大腸がんの予防などです。
科学的に検証しますと、動脈硬化などの予防・改善効果は認められていますが、がんへの効果は科学的根拠がはっきりしていないようです。
また、うつ病の標準的治療の補助剤としてEPAを摂取することで、うつ病の改善が認められたという報告や、がんなどの外科手術前後にアミノ酸の一種のアルギニンなどと共にEPAを摂取すると、手術創の回復が早まり、感染症が予防されるという報告もあるそうです。

ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は、私たちの体内で合成することができないので、青魚を中心とした食物から摂る必要があります。
ただし、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は、魚の脂肪に含まれますので、たくさんとりすぎることはエネルギーオーバーになりますので、注意しましょう。

参考図書:頭イキイキ血液サラサラの食事術(講談社)、健康でいるための栄養のとり方(小学館)、抗がんサプリメントの効果と副作用 徹底検証!(三省堂)

秋の薬草のはなし

2015年 9月 15日 火曜日

まだ少し早いかもしれませんが、もうすぐ秋がやってきますね。
秋と言えば、食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋と色々ありますが、秋の七草、イチョウにモミジ、コスモス・・・などなど、木や草花が豊かな季節でもあります。

じつはその中には、おくすりとして使われるものもありますので、いくつか紹介してみたいと思います。

【キキョウ(桔梗)】
秋の七草の1つで、8~9月にかけて青紫色で星形の花を咲かせるキキョウですが、根っこの部分のサポニン類という成分がおくすりとしての効果をもつことが知られています。

実際にはほかの生薬との組み合わせで、咳を抑え、痰の切れを良くする目的や、炎症を抑え、膿を取りのぞく目的で使われています。桔梗湯(ききょうとう)や排膿散(はいのうさん)という名前を耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ちなみに、キキョウはつぼみの状態の時に花びら同士がくっついていて風船のように見えるため、海外では“balloon flower”と呼ばれるそうです。なんだかおしゃれですね。

【クズ(葛)】
葛根湯(かっこんとう)が有名ですから、知らない人の方が少ないかもしれません。こちらも秋の七草の1つとして知られており、8~9月にかけて紅紫色の花を咲かせます。

葛“根”というくらいですから、根っこの部分をおくすりとして用います。解熱鎮痛作用や発汗作用を持ち、例えば葛根湯として風邪のひき初めや肩こりなどに使われています。

吉野葛など食品としても日本人になじみの深いクズですが、2008年には宮崎大学によりクズからバイオエタノール燃料を生成する技術が開発されています。医食のみならず資源としても一役買っており、様々な面で私たちの生活を支えてくれているのですね。

【イチョウ(銀杏)】
秋も半ばに入ると山や街路樹をきれいに彩ってくれるイチョウですが、じつは欧米においてはイチョウ葉のエキスがお薬としても使われている国があります。

イチョウ葉エキスの中にはさまざまな化学物質が含まれており、その中でもテルペノイド、フラボノイド配糖体と呼ばれるいくつかの成分が、抗酸化作用や血を固まりにくくする作用を示すことが知られています。実際にヒトにおいては、記憶力低下・認知症の改善、循環機能の改善が認められることが臨床試験(治験)などで判明しています。

ただし、このイチョウ葉エキス、日本でも健康食品として売られていますが、欧米でくすりとして売られているものと品質・含量が同レベルであるとは限らないことに注意してくださいね。

今回は3つ紹介させて頂きましたが、ほかにもおくすりとしての働きを持つと言われている秋の草花がいくつかあります。

季節を彩ってくれ、心を豊かにしてくれる草花ですが、このように意外な一面を持っていることを知ると、普段見かける木や草花もいつもと違って見えてくるかもしれませんね。

(参考資料)

(公社)日本薬学会.“薬用植物一覧” http://www.pharm.or.jp/herb/list.html(参照2015.8.14)
(公社)東京生薬協会.“新常用和漢薬集” http://www.tokyo-shoyaku.jp/f_wakan/(参照2015.8.14)
(学)東邦大学 メディアネットセンター.“薬草園の世界” http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/yakusou/yakusou.htm(参照2015.8.14)
(独)国立健康・栄養研究所.“イチョウ葉エキスの有効性および安全性”. http://www0.nih.go.jp/eiken/chosa/IppannGingko.html(参照2015.8.14)